京大呼吸器外科 京都大学医学部附属病院呼吸器外科

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京都大学における肺移植

セミナー 2003 ET-Kyoto液研究会

京都大学呼吸器外科は非還元性二糖類トレハロース、細胞外液型電解質組成、血管内費保護を特徴とするET-Kyoto液、new ET-Kyoto液を独自に開発し、肺保存におけるその有効性を国内外の学術雑誌に報告してきました。newET-Kyoto液は昨春および今春、京都大学での生体肺移植でも使われ、移植肺の術後機能は良好でした。さらに、ET-Kyoto液の応用は他臓器にも広がりつつあります。

さる2003年6月18日、芝蘭会館(京都市左京区)で、第1回、ET-Kyoto液研究会が開かれました。当日はET-Kyoto液に関する研究や臨床応用の報告のみならず、臓器保存やトレハロースに関連した興味深い演題発表が行われました。

演題と演者
 

水で戻すと蘇生する昆虫の乾燥耐性メカニズムの解明
独立行政法人 農業生物資源研究所 奥田 隆

アフリカ大陸には岩盤の窪みなどに溜まった小さな水たまりに生息する奇妙な生活史を持ったネムリユスリカ(学名: Polypedilum vanderplanki)という昆虫がいます。乾季に水たまりが干上がるとユスリカ幼虫も完全に脱水しカラカラに乾燥してしまいます。しかし雨季になり、水がたまると、乾燥幼虫は吸水して再び発育を開始します(図1-A)。乾燥状態の休眠ユスリカ幼虫が17年後、水の中で蘇生したという記録が残っています。乾燥幼虫の身体には、乾燥重量の20%に相当する大量のトレハロース(糖)が含まれていました。トレハロースはタンパク質などの生体成分を乾燥から保護する役割があります。幼虫の頭部と胸部の間を糸で縛り、頭部を除去し、幼虫を乾燥条件に入れ、完全に乾燥したことを確認した後(図1-B)、水に戻したところ幼虫は蘇生しました(図1-C)。脳を失っても幼虫は乾燥過程でトレハロースを合成・蓄積していました(図2)。ユスリカ幼虫の各細胞・組織自身が乾燥ストレスに応答し、自律的に乾燥休眠の準備をしていることがわかりました。そこで現在、ネムリユスリカの摘出した組織の常温乾燥保存技術の開発に取り組んでおり、特定の組織については好結果を得ています。ネムリユスリカで得られた情報を脊椎動物の臓器保存技術に応用できたらと考えています。

 

細胞内シグナル解析からみた保存液の条件
岡山大学医学部 大学院医歯学総合研究科 尾崎 倫孝

臓器移植において、虚血再潅流傷害はいまだ重要な問題である。近年細胞内シグナル伝達機構の解析によりいくつかの重要なシグナル分子が確認され、新たな概念が形成されつつある。これは、遺伝子治療、蛋白治療にむけた新たな道を開くことにもつながった。
ところで、臓器虚血・再潅流時には、アポトーシスを誘導し細胞傷害を引き起こす一連のシグナルだけでなく、同時に抗アポトーシスに関連したシグナル、再生を誘導するシグナルも活性化され、これらが複雑なネットネットワークを形成して機能している。これらのシグナル伝達は、臓器の虚血あるいは再潅流(再酸素化)という病的な場で、細胞内のレドックス状態に強く影響されており、移植後の臓器機能障害、再生を左右していると考えられる。こういった状況下で、Rac1, Noxは、酸化的ストレスを産生する攻撃因子として、また、PI3K, Aktは、防御因子として働いている。Ref-1は、レドックス状態を修飾するとともに転写因子の活性を制御する因子としても働いているように思われる。
臓器移植においては、ドナーの状態(長い死戦期、脂肪肝)、グラフトの保存状態(温阻血の有無)により、移植される臓器(細胞)のviability(integrity)も異なり、小グラフトの場合はその再生能をも考慮しなくてはならない。こうした種々の病態に対して、標準的な保存液とともに適切なオプションが必要と考えている。今後、そういった状況にて要求される条件をレドックスおよび生存シグナル経路の面より解析し、より有効な保存液を開発する必要があろう。(

 

形成外科領域におけるET-Kyoto液の効果
京都大学医学研究科形成外科 鈴木義久

マイクロサージャリーの進歩は切断肢の再接着を可能にしたが血行遮断時間が長いと回復不能に陥る。この時間的制約を延長させるためトレハロース含有保存液の有用性を検討した。 皮膚組織に対する保存効果を調べるため、家兎耳介の皮弁を、ET-Kyoto液、IT-Kyoto液あるいはEuro-Collins液中に保存した。その結果、ET-Kyoto液、IT-Kyoto液で保存した皮弁はEuro-Collins液で保存した皮弁より保存状態はよく生着率も高かった。
筋肉組織に対する保存効果を調べるため、ラットの薄筋を用いた。薄筋の栄養血管を温存して採取し、トレハロース含有Euro-Collins液と通常のEuro-Collins液中に保存した。保存状態を筋肉中のATP、ADP、AMPとCP含有量、組織、栄養血管開存率等で評価したところ、トレハロース含有Euro-Collins液で保存した筋弁のほうが保存状態は良かった。
以上の実験結果を提示し医の倫理委員会の承諾を得て、ET-Kyoto液を切断指の保存にもちいた。7本の切断指にもちいた結果、全例生着しその有効性が臨床的にも証明された。

 

新しい臓器保存液(ET-Kyoto液)の腎初期flush効果ならびに保存効果の検討
京都大学泌尿器科 (現: 大津赤十字病院泌尿器科) 吉田浩士

【目的】
当院ではtrehalose, gluconateを含む細胞外液型臓器保存液(ET-Kyoto)を開発し、肺保存にてUW液と同等の保存効果を得ている。腎におけるET-Kyoto液の有用性を@初期flush効果 A保存効果の2点について検討した。
【方法】
雄性Wistar ratを使用し、Euro-Collins液(EC), UW液およびET-Kyoto液(ETK)を対象とした。
(1)各保存液に色素を加え腎を100mmHg,5分間flushしたのち1mm厚の切片を作成し色素の分布率を測定した。
(2)腎をKrebs-Henseleit(K-H)液でpreflushしたのち各保存液でflushし4℃, 24時間保存した後Isolated Perfused Kidney modelにて2時間再灌流し、creatinine clearance (CCr), Na再吸収率, 灌流抵抗、および湿乾重量比を測定した。
【成績】
(1)ETKは腎全体にflushされ分布率はほぼ100%であったのに対し、EC,UWはflushが不十分で、分布率は共に50%前後であった。
(2)K-H液でpreflushすることよりEC,UWのflushは著明に改善した。再灌流後ETK群はUW群と同等な機能を示し、EC群に比べCCr, Na再吸収率, 灌流抵抗,湿乾重量比で有意に良好な値を示した。
【総括】
ETKは腎flush、腎保存のいずれにおいても優れた効果を示した。化学的に安定で長期保管が可能なこの液は、有用な腎保存液であると考えられた。

 

ET-Kyoto液を使用して生体肺移植を施行した1例
京都大学呼吸器外科 長谷川誠紀

症例は20代女性、肺リンパ脈管筋腫症(LAM)。約3年前の発症以来急速に病状が進行し、肺移植登録の準備中であった。右気胸から呼吸停止となり、蘇生後当院に救急搬送された。MRSA肺炎から敗血症性ショック症状となったため、母と姉をドナーとする緊急生体肺移植を施行した。手術は順調に経過、人工心肺時間303分、右肺虚血時間252分、左肺虚血時間92分、出血量3800g。ドナー肺葉はETK液で潅流され良好なフラッシュを得た。再潅流後人工心肺離脱時の動脈ガス血測定では、pH7.39、PaO2 603mmHg、PaCO2 36.8mmHgと極めて良好な肺機能であった。術後36時間後より虚血再潅流傷害と思われる肺浸潤影と低酸素血症を来したが、エラスターゼ阻害薬投与やPEEP圧増加により術後60時間で軽快した。虚血再潅流傷害の原因は術前の極めて不安定な全身状態と、過小なドナー肺(左右下葉の合計容量が理想値の55%)にあると思われた。術後もMRSA肺炎や乳糜胸腹水などに難渋したが呼吸機能は一貫して良好に経過し、一般病棟へ転出した。

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