京大呼吸器外科トップ > 患者様、お見舞いの方へ > 肺移植について

“呼吸がしんどい”ということは、健康な人にはわからない、大変な苦しみです。お薬などの内科的治療を可能な限り行っても、病状が進行してしまう場合があります。余命が限られている重症な患者さんの命を救うことができるのが、肺移植です。傷んだ肺を取り除いて、そこにいい肺を移植するわけです。肺移植を受けると、呼吸が楽になり、健康な人と同じような生活を取り戻すことができるのです。
しかしながら、肺移植には大きな問題点もあります。それは、自分のものではない肺が体の中に入るので、拒絶反応が起こってしまうことです。拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤という薬を一生飲み続けなければなりません。免疫力が低下すると肺炎などの感染症が起こりやすくなってしまいます。
1トロント大学のCooper先生らによって人間の肺移植が成功したのは、1983年のことです。すでに世界では、3万人もの患者さんが肺移植を受けています。一方、日本では、1998年に現京都大学呼吸器外科教授の伊達らによる岡山大学での生体肺移植が初めての成功例です。これまでに約130人の患者さんが日本国内で肺移植を受けています(平成21年3月現在)。
内科的治療を行っても病状が進み、余命が限られていると思われる重症患者さんが肺移植を必要とする患者さんです。ほとんどの場合、生活を送るのに酸素吸入が必要な状態です。しかしながら、肺移植手術は大変大きな手術であるため、その手術を乗り切るだけの体力が残っていなくてはなりません。したがって、肺移植の適応には、多くの細かい取り決めがあります。ここでは、重要な点のみ列挙しておきます。
以下のような病気が肺移植の適応疾患です。もちろん、お薬の治療がよく効く場合には、肺移植の必要はありません。あくまでも、お薬が効かない重症な患者さんが適応です。それぞれの病気で、どのくらい状態が悪くなった時に肺移植を考えるべきかという細かい目安がありますが、専門医にお尋ねください。
肺移植を行うためには、当然ながら肺を提供してもらう人が必要です。脳死ドナーから肺を提供してもらう脳死肺移植と、ご家族から肺の一部を提供してもらう生体肺移植があります。外国では、脳死肺移植がほとんどで、生体肺移植は1%ぐらいです。一方日本では、脳死ドナーの数が少なく、生体肺移植が60%ぐらいを占めています。
脳死肺移植
脳死肺移植では、脳死に至った方の善意によって提供された肺を移植します。疾患の種類や程度によって異なりますが、片肺もしくは両肺を移植します。脳死肺移植を受けるためには、まず、京都大学に10日間ほど入院して、詳しい検査を受けていただく必要があります。その結果を京都大学内および学外で審査する制度があります。肺移植が必要と承認されると、日本臓器移植ネットワークに待機登録することができます。登録するまでには、数か月かかります。その後は、自分の順番がくるまで待機します。公平を期するため、待機期間の長い患者さんに臓器の優先権があります。日本では約130名の患者さんが待機(平成21年3月現在)していますので、平均待機期間は3年近くに及んでいます。呼吸が苦しい患者さんにとって、いつ出現するかわからない脳死ドナーを待機するのは大変つらいことですが、希望をもって待っていただきたいと思います。待機期間中は、原則的にご自宅や、ご自宅の近くの病院で待機していただきます。待機順位が上位の場合には、4-5時間以内に京都大学に入院できる場所で待機していただく必要があります。
自分の順番の脳死ドナーが出現すると、日本臓器移植ネットワークより京都大学に連絡が入ります。そして、京都大学よりレシピエント(移植を受ける人)に連絡し、1時間以内に返事をいただきます。移植を受ける意志がある場合は、すぐに京都大学へ入院していただき、脳死肺移植が始まります。
生体肺移植
脳死ドナーの数が少ないことから始まったのが生体肺移植です。通常二人の健康なご家族がそれぞれの肺の一部(下葉)を提供して、患者さんの両肺として移植する方法です。患者さんが小児などの小柄な場合に、お一人の提供者からの片側生体肺移植を行えることがまれにあります。
健康な人にメスの入る手術ですので、脳死ドナーの出現まで待機できないと思われる重症な患者さんが生体肺移植の適応となります。また、生体ドナー(肺の一部を提供する人)は、肺を提供することによって、15-20%の肺活量の低下が起こりますし、手術にはリスクも伴います。したがって、提供の意思が、誰にも強要されることなく、愛情に基づくものであることが大前提です。京都大学では、生体ドナーの条件として厳格な規定を設けています。その重要な点のみを列挙します。
肺移植手術中の写真(京都大学医学部附属病院手術部) |
肺移植手術は大変大きな手術です。全身麻酔をかけて、片肺移植で5時間、両肺移植では7時間ぐらいかかります。呼吸器外科、心臓血管外科、麻酔科、手術部などがチームを組んで手術を行います。 そして、肺移植手術が終わるとICU(集中治療室)で術後の管理を行います。たくさんの医療機器、薬剤、医療スタッフ等によって集中的に治療を行いますが、患者さんは覚えていないことが多いようです(鎮痛剤などお薬の影響です)。しばらく人工呼吸器が必要ですが、2週間ぐらいで、自分の力で呼吸できるようになります。 |
| 2-3週間で一般病棟に移って、リハビリテーションを行います。このころには、多くの場合、酸素が必要なくなります。退院してからの生活に備え、さまざまなことを勉強してもらいます。移植は受けたら終わりではありません。移植後も様々な自己管理が必要です。約2か月で退院すると、病院の近くに住んでいただき、外来通院をしてもらいます。約3か月で地元に帰っていただくことができます。 地元に帰った後も、定期的な病院への通院、免疫抑制剤や抗生物質等の5〜6種類程度のお薬が一生涯必要です。また、移植術後、半年までは食事制限もあります。拒絶反応の早期発見のために、毎日、自宅で簡易型呼吸機能検査をすることも必要です。このように、肺移植後は自己管理をしていくことが重要となります。しっかりと自己管理をしても慢性拒絶反応や感染症を発症する場合があります。しかし、退院後は、移植前に必要だった酸素吸入や車椅子も必要なくなり、自己管理をしながらお仕事をされたり、家事をされたり、ほとんどの方が社会復帰をされています。 |
生体肺移植後3か月の女児。(移植前は人工呼吸器が必要でした) |
脳死肺移植は保険適応になっています。術前の検査、手術、術後の検査や投薬はすべて保険適応です。
生体肺移植も同様に保険適応ですが、8疾患(原発性肺高血圧症、特発性間質性肺炎、肺リンパ脈管筋腫症、閉塞性細気管支炎、間質性肺炎、嚢胞性肺線維症、肺嚢胞症、気管支拡張症)に限られています。それ以外の病気の場合には、自費になってしまいます。
提供される臓器には、摘出から移植されるまでの間、血流がありません。この血流のない間(虚血時間)に臓器機能が低下しないように臓器の血管から冷却した臓器保存液という特殊な液を注入します。このことで、血管内の血液が洗い出されるとともに、臓器の温度を急速に下げることが出来ます。そして臓器は、冷却した臓器保存液に浸されて移植を待ちます。これまでは肺の保存にも肝臓移植や腎移植で使用される保存液が世界的に頻用されてきましたが、肝臓や腎臓が30時間以上保存できるのに対し肺は10時間しか保存できず、移植後の臓器機能障害や遠隔地で発生した貴重なドナー臓器が使用できないなどの問題がありました。そこで私たちは、より保存効果の高い臓器保存液ET-Kyoto液を開発しました。その特長は、細胞保護作用のある糖トレハロースを含むこと、電解質の組成が生体内の細胞周囲の組成に近いこと、血管内皮細胞の保護物質を含むことで実験的検討では20時間肺保存が可能でした。現在、ET-Kyoto液は商品化され、肺以外にも切断肢指、腎臓などの保存に使用されています。
京都大学は日本で最も古くから肺移植の研究に着手した施設の一つです。和田教授時代の平成14年4月に生体肺移植、同年8月には脳死肺移植に成功しました。しかしながら、平成18年3月に実施した脳死肺移植(京都大学で8例目の肺移植)の際に患者さんが重篤な脳障害を起こしてお亡くなりになったことから、肺移植を自粛いたしました。平成19年10月に、日本で最も肺移植の経験が多い伊達教授が岡山大学から赴任しました。新しい肺移植チームによって、平成20年6月には生体肺移植を再開し、平成21年3月までに実施した4例の生体肺移植は全例が順調に経過しました。これを受けて、平成21年3月に脳死肺移植プログラムも再開いたしました。
京都大学では、肺移植手術を安全に行うために、関係各部署が何度も集まって、会議やシミュレーションを行ってきました。“レシピエント安全管理指針”というマニュアルも作成しました。新しくなった肺移植チームは、密に連絡をとりあって、困難な肺移植手術がうまくいくように、日々努力しています。
京都大学へは、年間50件ぐらいの肺移植相談が寄せられています。肺移植についての詳しい説明や質問に関しては、下記までお気軽にご連絡ください。
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「肺移植のためのガイドブック」(編集:日本呼吸器学会、 日本胸部外科学会)がPDFファイルにてダウンロードできます |
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肺移植を受けた患者さん、肺移植を待機中の患者さん、およびそのご家族の会です。患者さんが自主的に、肺移植の相談、会員相互の交流、会報発行などを行っておられます。ご興味のある方は、下記、あるいは肺移植コーディネータまでご連絡ください。
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